リモートカレー会議
第2辛
大阪スパイスカレー
今昔物語
TAK×ジル
文・トミモトリエ
スパイスカレーとは一体何なのか?
なぜ私たちはスパイスカレーを食べ続けてしまうのか?
スパイスカレーに魅了され、過剰なまでに追い求め続ける関西カレーマニアたちとZoomでリモートランチ会。カレー屋に行けない・カレー仲間に会えない今、オンラインで一緒にカレーを食べながらカレー愛を語ります。
ラーメンマニア
からの転身!?
関西スパイスカレー
マニア二大巨頭の
カレー史
リモートカレー会議 2辛目。今回のゲストは、『究極のカレーAWARD関西』選考委員でもあるカレーブロガーのTAK(タック)さんと、カレーマニアの中でも女王的存在の食べ歩き・飲み歩き女子ジルさん。大阪スパイスカレーの歴史をよく知るカレーマニア2人と語る、スパイスカレーの過去と未来。
- TAK
- カレーブログ「かれおた☆-curry maniacx-」管理人。 カレーイベント「かれおただヨ!全員集合」主催。「Japanese Curry Awards」審査員。ぴあMOOK関西「究極のカレー」にて「究極のカレーAWARD」選考委員。
トミモトリエ(以下、ト) 今回は関西カレーマニアの中で一目置かれる存在の2人に集まっていただきました。カレーブロガーのTAK(タック)さんと、食べ歩き・飲み歩き女子として有名なジルですが、2人はけっこう古い知り合いなんですよね?
TAK(以下、T) ジルと知り合ったのは……いつだっけ?8年くらい前?
ジル(以下、ジ) 多分やけど、TAKさんと初めて話したのって、2012年に[ムーランキッチン]でやった食べ歩き仲間の誕生日会やったと思う。
T あー、あったねぇ。お互い存在は知ってたけど、ちゃんと話したのはあの時か。
ジ そうそう。でも、その頃のTAKさんは、カレーマニアというよりスイーツ男子やったんですよ。めっちゃスイーツのこと詳しくて、よく美味しいケーキ屋とか教えてもらってた。
ト えっ!そうなんですか?スイーツ男子だったんですか!?
T いや、スイーツも好きで食べてたけど、その頃は何よりもラーメンが好きで。ラーメンとスイーツを食べ歩いては、食べログにレビューを投稿してたんです。
ト へー!カレーにハマったきっかけは?
T 食べログつながりの知人に[旧ヤム邸]の前身の[ヤムカレー]を薦められて食べに行ったんですよ。それが2011年の12月。「なんだこれは!」と、カルチャーショックを受けて……!
※[旧ヤム邸]は、1999年に店主の植竹さんとお母さんと友人の3人ではじめた[ヤムティノ]から[ヤムカレー]を経て(南船場にあったウェスタンバー[HANSEN]で営業していた)、2011年に現在の谷町六丁目の店舗をオープンした。
ト わかりますわかります!私も大阪スパイスカレーのファーストインパクトは[旧ヤム邸]だったので。それにしても、ラーメンマニアからカレーマニアに転身する人ってけっこう多いですよね。
T どちらも創作性が高くて幅広いから、ハマるととことん追求してしまうんだよね。
ト カレーブログ「かれおた -curry maniacx-」はいつから書いてるんですか?スパイスカレーの店を検索すると必ず上位に出てくるので、カレー好きな人は一度は訪れたことがあるブログだと思うんですが。
T 2012年にスタートしたので、僕はカレーブロガーとしてはだいぶ後発なんですよ。もっと昔からカレーブログをやってる人はたくさんいたし、有名な先駆者もいた。ただ、スパイスカレーが流行りだした頃、それに特化してる人はまだいなくて。たまたまタイミングが良かったんです。
ト なるほどー。ジルは最初にハマったカレーって覚えてる?
ジ 覚えてないんだよね。最初は立ち飲みや酒場からスタートして、いつの間にかカレー屋の知り合いが増えて、カレーを食べる機会が増えていったのかも。
ト ジルはカレーマニアというより「食べ歩き・飲み歩き女子」だったんですよね。
ジ そやね。22歳の頃から北浜とか淀屋橋あたりでよく飲んでて、お店の人や常連さんと仲良くなって。25歳の時に会社を辞めてニートになったんやけど、そのタイミングで「ツムテンカク※」に関わるようになって、2012年の「ツムテンカク2012」で「ジルバル in 新世界」ってバルイベントを始めたんです。
※ツムテンカク:2011年にスタートした、新世界の街中で「世界を変える大実験」を行うデザイン&アートイベント。私(トミモト)が所属する株式会社人間も関わっている。
ト 『あべの経済新聞』に紹介された当時のニュース見つけたんだけど、「謎の女子が企画」ってタイトルで笑ってしまった(笑)。ジルはこの頃からキャラ立ちしまくってたんだね。「奇抜なファッションが特徴で、飲み歩きが好きな大阪出身のジルさん(25)。本名を明かさずジルで通す謎の女子。」って書かれてるし。
T うんうん。僕もジルの第一印象は「ド派手!」の一言やった。今は随分と落ち着いたと思うもん(笑)。「ジルバル」とか「ジルジルシ」とか、やってることも目立ってたしね。
ジ 「ジルジルシ」のステッカーはこのイベントのために作ったんやけど、発注が100枚からやったから余って。イベント終了後も、自分が美味しいと思ったお店に配って貼ってもらうっていう活動を今でも続けてます。
ト 関西では、「食べログ 話題のお店」みたいに、”謎の女子”ことジルのお墨付きステッカーがいろんな飲食店に貼られていて、それを見て知ってる人は「お、ジルおオススメの店やん」ってなる現象がめちゃくちゃ面白くて。
ジ ただのニートだったんやけどね(笑)
裏谷四が火付け役!老舗から
境界線ギリギリの
大阪スパイスカレーの
魅力
ト さて、食べながらお話していこうと思いますが、今回2人がテイクアウトしたカレーを紹介してくださーい。
ジ 私は[カルータラ]です。[カルータラ]はずっと食べ続けたいベスト5に入るカレーなんよね。最近インスタを始めたみたいで、テイクアウトとパウチの販売を始めたって投稿を見て「買いに行かな!!」と思って。ビーフカレーのテイクアウトと、チキンカレーのパウチも買いました。パウチは予約制です。
ト ジルは子どもが生まれてからはあまり外食できてない感じ?
ジ 最近はもう本当に好きな店にしか行かなくなってるかな。残ってほしいお店を応援したいから。
ト そうなってくるよね。TAKさんの今日のカレーは?
T 僕は、高槻の新店[グーグー藤カレー]です。最近高槻市もスパイスカレーが盛り上がってきてるので、そんなご紹介もかねて。元々[藤カレー]って名前で、高槻市の商店街にあるバーで間借り営業してたんだけど、このコロナ騒動の最中に実店舗をオープンするっていう……。
ト 私も[藤カレー]の時からずっと行きたいと思って行けてないんですよねー。それにしても美味しそう!
T インドカレーをベースに、スパイスの使い方や素材にこだわりを感じるカレーだね。
ト 私は、大阪スパイスカレーのファーストインパクトを振り返るべく[旧ヤム邸]の「カレー弁当」をテイクアウトしてきました。大阪のカレー事情を全く知らないで引っ越して来たから、最初に[旧ヤム邸]に行った時、涙が出るくらい感動したんですよ(笑)
T そこまで!?東京にもスパイスカレーの店はたくさんあったでしょ?
ト 東京は店の数は多いと思うんだけど、どちらかというと古き良き老舗を崇拝する傾向が強くて。銀座の高級店とか、神保町の名店みたいな「ハイクオリティで美味しいカレー」はたくさんあっても、ここまで自由度が高くて、良い意味で”滅茶苦茶なカレー”は当時なかったんですよ。
ジ そうなんや。大阪に慣れてしまって感覚がよくわからなくなってる(笑)
ト でも、カレーにハマったきっかけは2004年に食べた武蔵小金井にある薬膳カレーの店[プーさん]なんだけど、あの衝撃を超えるものはなかなかないな。大阪でカレーを食べまくってる今も不動の1位。ちなみに、TAKさんのスパイスカレーベスト5に入るカレーを1つ挙げるとしたら?
T 僕のことを知る人からは「でしょうね」って言われると思うんだけど、やっぱり[堕天使かっきー]が最初に浮かぶね。
ト でしょうね……って思いました(笑)。めっちゃ行ってますもんね。
T [堕天使かっきー]の魅力は、「これはカレーなのか?」っていう境界線ギリギリのカレーを作り続けてるところだよね。レシピは全部押さえてるから同じメニューを作ろうと思えば作れるらしいけど「面白くないから同じのは作らない」っていう。
ト うんうん。最大級の褒め言葉として「変態」って言いたい。
ジ (笑)
ト そもそもなぜ大阪でこんなに「スパイスカレー」というものが進化して広がっていったのか?っていうところをあらためて2人に聞きたいんですが……。
T 歴史を振り返れば[ルーデリー※]とか[カシミール]みたいなレジェンドの存在は大きいけど、その当時「スパイスカレー」という共通認識はなかったわけで。
※ルーデリー:1982年心斎橋にオープンした大阪スパイスカレーの源流とも言われる老舗カレー専門店。2008年に2代目店主の故郷である宮崎県に移転。
ジ うんうん。
T 2008年に[コロンビア8]がオープンして、2010〜2011年に[谷口カレー]や[宝石※][旧ヤム邸]もオープンして、ジワジワ盛り上がってくるんだけど、本当の意味でブームの火付け役になったのは、2012年に「スパイスカリー」という看板を掲げた[バビルの塔]なんじゃないかな。「裏谷四※」というブランドを作って広めた張本人でもあるし。
※裏谷四:[バビルの塔][まんねんカレー][nidomi][iloilo(中津に移転)][ゼロワンカレー(東京に移転)][宝石(閉店)]などカレーの人気店が集まる谷町四丁目西側エリア。[バビルの塔]の福田さんが命名。
※宝石:2011年にオープンし、裏谷四エリアの中でも行列の絶えない人気店だった。2015年に店主が亡くなり閉店。
ジ あと、Facebookで「口癖はカレー※」のコミュニティーが立ち上がったのが2011年やから、SNSでカレーの情報交換をすることで、カレーファンが増加していった時代でもあるかも。
※口癖はカレー:[ニッポンカリー オルタナ。]の三嶋さんが2011年10月に立ち上げたカレーマニアのためのfacebookグループ。承認制でありながら2020年6月現在8,000人を超えるメンバーが参加している。
ト なるほど。東京から来た私からすると、2014年に「大阪だけ異常にカレーが盛り上がっている」という状況を目の当たりにしてカルチャーショックを受けて。『口癖はカレー』のイベントと同時期に[谷口カレー]の谷口くん主催の『カレー大サーカス※』に参加して「カレーってこんなに集客力あんの!?」って驚いたのよね。あと『カレー事情聴取※』も!
※カレー大サーカス:[谷口カレー]の谷口さんが主催する、カレーと様々なカルチャーのミクスチャーイベント。
※カレー事情聴取:展示・イベントスペース「油野美術館」で定期的に行われているカレー出店イベント。お店を出す前のセミプロにとっては登竜門的イベントであり、最近では東京や地方の人気店も参加。多い時は2,000人以上の来場者を記録する。2013年にスタートした第1回目は、館長と知り合いの音楽関係者による小規模なカレー試食会だったという。
T 『カレー事情聴取』は、一番リーズナブルにカレーを食べられるカレーイベントじゃないかな。「油野美術館」の佐々木館長自身がやってるイベントだから、あの価格でできるんだよね。カレー3つに1ドリンクで1,500円って、場所代考えたらありえないから。
ジ 関西では、お店を出す前に「まずはカレー事情聴取に出る」っていう潮流がある。カレー屋への「登竜門」になってるよね。既にお店をやってる人にとっても試作品の発表の場であったり。
ト 定期的に『カレー事情聴取』みたいなイベントがあるのも大きいけど、大阪のすごいところは、バーや居酒屋が「昼の営業してない時間使ってええよ」って、気軽に間借り営業させてくれる”ゆるさ”だと思うんですよ。とりあえずお試しでやってみたり、お店を出す前にファンを作ることがことができるから、カレー屋になるまでの敷居が低い。
ジ 確かに「間借り」というスタイルが定着しなければ、大阪スパイスカレーの文化もこんなに進化しなかったと思う。そういう意味では、間借りスタイルを広めた[谷口カレー]の谷口くんの功績も大きいね。
スパイスカレーは、
なぜ東京ではなく
大阪で発展したのか?
ト 東京って、なんとなく「ちゃんとしなきゃいけない」っていう意識が強い気がして。
お店をやろうと思ったら、不備なく準備して、申請して、周りに迷惑かけないように……って考えるのが当たり前なんだけど、大阪は、良くも悪くもそういうところが適当(笑)。何でも「面白かったらええやん」で通るところがある……。
T 人間性とまで言うとオーバーだけど、人となりの違いはあるね(笑)。大阪は東京に比べると「これはこう」っていう固定観念があまりないのかも。あと、カレーに限らず東京のコミュニティは細分化されていて、何かに属していないといけない……みたいな雰囲気があるって聞いたことあるな。
ト 確かに、東京の飲食業界は新しいブーム・ジャンルを作りにくい空気があるかも。何かしらの固定したジャンルに当てはめてしまいがち……。あと、大阪でスパイスカレーが盛り上がったのは大阪の都心の物理的”狭さ”も大きな理由だと思っていて。
T ほうほう。
ト 大阪は狭い範囲にカレー屋が何店舗もあって、市内なら自転車でいくらでも移動できちゃうでしょ。例えば、カレー激戦区の裏谷四から北浜までは自転車で5分程度。そこからちょっと遠出して福島あたりに行こうと思っても10分で着いちゃうからね。東京だったら、一見近そうな吉祥寺から高円寺だって、梅田から天王寺くらいの距離※があるんです。
※吉祥寺から高円寺=6.9km/梅田から天王寺=6.9km。ちなみに、東京23区の面積=619km²/大阪市24区の面積=223km²なので約2.8倍。東京のカレー激戦区である吉祥寺から神保町=17.2kmは、梅田から堺市=15.0kmよりも遠い(豆知識)。
ジ そっか、東京だと目当てのカレー屋がやってなかった時のリカバリーも難しいんやな。
ト そうそう。私、大阪に来たばかりの頃めっちゃジルにお世話になって。「#カレー難民」のハッシュタグを付けて「◯◯閉まってた」とか投稿すると、ジルが「その場所からだったら◯◯が近いよ!」ってコメントで教えてくれたの、あれめっちゃ助かってた。
ジ そんなことやってたね。
ト 大阪は職場から自転車で10分圏内にたくさんカレー屋があって、東京では考えられないフットワークの軽さでカレー屋巡りができてるんですよ。
T なるほどね。ちなみに東京も大阪みたいなカレーのイベントってあったの?
ト 「下北沢カレーフェスティバル」とか「神田カレーグランプリ」とか、行政や観光協会が絡むようなビッグフェスは昔からあった。大阪でいうと「カレーEXPO」みたいな。でも、大阪はそういうビッグフェスより、カレー屋がTシャツを作る「着るスパイス※」とか、独自の発展を遂げたニッチなイベントが大盛り上がりしてるのが面白いんですよ(笑)
※着るスパイス:[スパイスカレーまるせ]主催のカレー屋によるTシャツ展示販売&コラボカレーが食べれるイベント。残念ながら2020年度の開催は延期。チャリティーイベントも開催している。
ジ 確かに。
ト カレー屋同士がやたらと仲良いのも、街やコミュニティの狭さが関わってると思うんですよね。
T 仲間意識強いよね。
ト もはや「大阪スパイスカレー」という言葉が全国的に浸透して、東京に進出した[旧ヤム邸 シモキタ荘]や[ゼロワンカレー]も人気ですが……これからスパイスカレーブームにどんな変化が起こると思います?
T 最近は岡山県がアツいよね。一番気になってるのは[サティスファクション]かな。
ト あ!私も岡山で行きたい店多いんですよ!
ジ 岡山は「カレーのためのうつわ展」を企画した[アートスペース油亀]があるんですよね。美味しいカレー屋も多い。
T あと、奈良に新しくできた[菩薩カリー]が気になってる。大阪スパイスカレーみたいな個性強いタイプじゃなくて、現地系のダルバートとかやってるんだけど。実直なことやる店が増えてきた気がする。
ト 神戸も「#神戸をカレーの街に」って合言葉を掲げて頑張ってますよね。元町の[チーニーカリー]に早く行きたい!大阪で気になることといえば、このコロナ禍にオープンした店もけっこう多いんですよね。2号店オープンラッシュというか。
T [金剛石]の[百薫香辛食堂]とか、[元祖エレクトロニカレー]の[魁エレクトロニカレー]とか、[ツキノワ]の[食堂チリン]とか……。
ジ 今は人気店だからといって生き残れる訳ではなくなっているから、まさかあの店が!?って事にならないよう応援したいな。
T あとは、中華料理の[八戒]や、イタリアンの[レオーネ]がカレーを提供しているように、他ジャンルの料理人が作るカレーが増えてほしいね。フランス料理[ブラッスリー・プティポー]がやってる[イデマツ]も面白い。王道とのカレーとも違う、それぞれの技法と技法を合わせたミクスチャー的なカレーを期待したい。
ト 確かに、関西のカレー屋同士は仲良く高めあってるけど、もっともっと他業種を巻き込んで広がっていくといいですね。まだまだこれから!
店舗情報
旧ヤム邸(空堀店)
大阪府大阪市中央区谷町6-4-23
営業時間: 11:30〜L.O.14:00/18:00〜L.O.21:00(日曜18:00〜L.O.20:00)
定休日:月
※6月1日より通常営業、テイクアウト可
カルータラ
大阪府大阪市西区江戸堀1-15-9 フラッグス肥後橋 1F
営業時間:月~金11:30~14:30/火~金18:00~20:30(前々日15:00までの予約制)
定休日:土・日・祝
※夜営業停止中、テイクアウト可(パウチは予約制)
グーグー藤カレー
大阪府高槻市高槻町9-20 ブルーピア第1ビル 103
営業時間:水~月11:30~14:30
定休日:火
※テイクアウト、デリバリー可
企画・文:トミモトリエ
編集・校正:平山 靖子(おかん)
企画・編集アシスタント:リエカレー
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