やっぱり雑誌が好き。第2冊:『あまから手帖』編集長・中本由美子さん

ノー・ミーツだった約2ヶ月間、Meets編集部と同様に、雑誌作りに携わる人たちは、何を考え、どんなアクションを起こしていたんだろう。
各誌編集部のみなさんの「今の想い」を知りたい。

そして、雑誌を愛する人を励ましたいし、励まされたい。
僕らはやっぱり、雑誌が好きだ。

2冊目は、関西の食文化の楽しさを発信する、大人な食マガジン『あまから手帖』(毎月23日発売)の編集長・中本由美子さんの話。アツいぞ、雑誌愛!

あまから手帖/編集長 中本由美子
あまから手帖/編集長 中本由美子
1970年生まれ。名古屋出身。青山学院大学を卒業後、食の専門誌を発刊する「旭屋出版」に4年勤務。1997年より『あまから手帖』編集部へ。8年間のフリーランスを経て、2010年、編集長となる。好物は寿司と和食、超日本酒党。

アホみたいな情熱で編む。

女子のカバンは、小さくて軽い。
女子力の高い友達ほどそうだったが、私はといえば、大学時代も出版社に入ってからも、小さなカバンを持ったことはほとんどなかった(そして、常に重い!)。最低でもA4大。何故って、そりゃ、雑誌を入れるためだ。

電車に乗れば、車中で手にするのは、携帯ではなく雑誌だった。手持ちがなければ、ホームで必ず1誌買ったものだ。
20代は『SAY』『JUNON』を毎月読んでいて、『dancyu』『BRUTUS』『Esquire』などの男性誌、『スクリーン』のような映画雑誌もよく見ていた。『太陽』や『サライ』も好きだったから、渋好みだったな、と思う。知りたいことを知るなら雑誌、私はそういう世代の真っただ中にいた。

20代の後半に『あまから手帖』の編集者となって23年、私ももうすぐ50歳になる。うちの読者層は40代以降で、50~60代が中心なので、ようやく読者の年齢に追いついた。それこそが、私が長くこの雑誌を続けてこられた理由だと思っている。ずっと読者世代を見上げながら、「いつの日か等身大の感性で作りたい」という気持ちを温めてきた。それが50代で叶うのだから幸福だ。
とはいえ、雑誌の行く末は明るいとはいえない。情報のスピードとボリュームではもはやWebには敵わないし、コロナ禍で多くの書店がクローズし、雑誌の弱みを思い知らされもした。それでも、雑誌を編んでいく。何を強みとして? それが「編集」であると私は信じたい。情報は集めて見せるだけでは面白くない。編んでこそ価値があると思いたい。例えば、京都の鯖寿司を食べ比べて、レア感と厚みでマトリックスを作るとか。酒蔵を1年かけて取材して回り、1本の酒ができるまでを育苗から紹介するとか。
いずれも本誌でやった企画だが、「こんな面倒なこと、ようやるわ」、そんな風に読者に面白がってもらえたようだ。それだけで、編集者は報われる。さらに『あまから手帖』の場合は、「真面目かっ!」というツッコミをいただくくらい、ちゃんとやるのが身上だ。今後はコロナで打撃を受けた生産者と飲食店を繫ぐ企画を“真面目に”考えたいと思っている。
オモロイと思ったら徹底的に調べて、情報を集めて、編んで、伝える。そのアホみたいな情熱が「雑誌」をまだまだ面白くすると、私は信じている。

最新号について

『あまから手帖』6月号

『あまから手帖』6月号
発売中
815円/クリエテ関西

コロナによる緊急事態宣言を受けて多くの飲食店が手掛け始めた取り寄せ商品や、エリア別のテイクアウト速報を大特集。巻末連載「家族のあじ」は「活字のあじ」として特別編をお届けします。

今後の予定について
7月号の特集は「宅飲み、取り寄せ、家ごはん」。6月号に続く“Stay home”応援企画。「人気店御用達、食材の輪」や「夏の鍋」、関西のワイン&クラフトビールなど、“生産者、飲食店と読者を繫げる”をテーマにお届けします。

文:中本由美子
写真:西島渚
企画・編集:松尾修平

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