星本幸一郎と松本賢志の
会えなくても会っても
ゴキゲンに飲みたい話
文:松本賢志
6月1日発売号のミーツの休刊に合わせて立ち上がった、会えない時間のWebマガジン『No Meets』。毎日のように酒場へ出向いたり、誰かと街へ繰り出すことが生きがいだったミーツボーイズ&ガールズとって、それらの場で誰かと交わす雑談こそが毎日に潤いを与えるものだったはず。そこで『No Meets』は、ライターとその友人が”ただ雑談する”連載を始めます。
第3談は、ウラなんばの名付け親であり、街のカオでもある名物店主・ホッシーこと[鉄板野郎]の星本幸一郎さんと、ウラなんばに通いすぎて「住んでる!?」との噂も絶えないヌシ的常連客であり、ミーツでライターとしても活躍する松本賢志さん。以前はほぼ毎週……いや週数回は顔を合わせて飲み交わしていた2人が、コロナ禍を経て約3ヶ月ぶりに(オンライン上で)再会!
- 星本幸一郎
- 今年5月で10周年を迎えた、ウラなんば屈指のカオス酒場[鉄板野郎]の店主。通称ホッシー。角煮でとろとろのとん平やお好み焼きの生地でチーズとポテサラを包み焼いたパイネなど名物メニューを多数考案。「ウラなんば」という街の通称の名付け親のひとりでもあり、今年2月にはお初天神裏参道に待望の2号店をオープン。
- 松本賢志
- ウラなんばの街とPUFFYの大貫亜美をこよなく愛するフリーライター。街場のイベントや飲食店に関する各種デザインから漬物屋の助っ人までを変幻自在に行き来する、街の便利屋的存在でも。Meets編集部ブログ内「捨てられないスニーカー。2足目」にも登場中。
「古今東西(パンパン)
古今東西のお題!」
松本(以下松) 久しぶりですね。
星本(以下星) ほんまやわ
松 最後に会ったのって[楽韓堂]※のオープニングでしょ。
※楽韓堂:東心斎橋のゴキゲン韓国料理店。今年3月、ウラなんばに2店舗目をオープン。店主のコニーさんは街の愛されキャラで、オープン当日はホッシーさんをはじめ、界隈の名物店主が続々と祝いに駆けつけた。
星 せやわ。ということは3ヶ月ぐらい会ってないんちゃう。
松 どうしてはったんですか?
星 いや、だからもう自粛よ。店も1ヶ月半ぐらい休んだし。
松 [鉄板野郎]、今年10周年やったでしょ。
星 そうそう、5月7日で。時期的に周年をやるやらへんとか議論の余地もなかったけど。できません、やん。
松 もう何もしないんですか?
星 どうしようかな、と思ってて。コロナの前にはライブハウスを借りてやるとかって話もあってんけど、そんなん今となっては絶対無理やんか。
松 そうですよねぇ……。店はもう通常営業に戻ってるんですか?
星 戻ってる。ところがさ、いざ店を再開してみたら、お客さんとの会話がどうしてもコロナ絡みになるのよ。
松 仕方ないでしょ、今は。
星 でも、ご飯食べてる時にコロナの話ばっかりしても、面白ないんやん。でも結局いっつもコロナの話題になってしまうから、オレってもしかして会話の引き出し少ない? って自信なくなってきて(笑)。
松 いやいや、引き出しだらけだと思いますけど。
星 それでちょっと思い付いたことがあんねんけど。
松 何ですか?
星 "古今東西"ってあるやん? 「古今東西(パンパン※手拍子)お菓子の名前」みたいなゲーム。
松 ありますね。
星 あれって何周も何周もまわしてたら、最終的に答えよりお題の方が出なくなってけえへん?
松 あー、確かにそうかもしれませんね。
星 だからそうなったら次は「古今東西(パンパン)古今東西のお題」っていうお題を出すのよ。意味わかる?
松 お題をお題にしてしまうってことですよね。
星 そうそう。そしたら次は、その出たお題で古今東西やればいいし、無くなったらまた“お題をお題”にする。
松 終わりませんやん。
星 せやねん。それをトークの起承転結の「起」にしたら、話題がコロナ一極集中になるのを防げるんちゃうかな、と思ってて。で、こないだバーで試してみたのよ、その古今東西話法を。
松 古今東西話法(笑)。どうなりましたか?
星 3時間ぐらいトーク尽きへんかった(笑)。例えば「なったことある病気」ってお題で、ボクやったら「眼窩底骨折(がんかていこっせつ)!」って言うやん。
松 やってますもんね、実際に。
星 そしたらみんなが「何それ!? どうやったらなるん?」とかって、どんどん広がっていって。お題をお題にしても、まわしていったらどんどんワケのわからんお題が出てくるし。だから最近は、ヒマがあったら「古今東西のお題」っていうお題で、いろんな人に古今東西を振ってる。で、トークに使えそうなお題が出てきたら、それをひたすらメモしてる(笑)。なんせこのコロナ禍で、トークの引き出しのなさを痛感してるから。
松 ある意味、めちゃくちゃ仕事熱心ですね。
西成区山王。
それは今
ボクが一番住みたい街。
松 飲みには行ってましたか?
星 行ってなかった。まっちゃんは?
松 全く行ってないです。じゃあ、最近のお気に入りスポットでもある山王にも?
星 それは行ってる。西成の山王地区な。めちゃくちゃ面白いもん、あのエリア。まっちゃんを1回連れて行きたくて、自粛なる前、めっちゃ誘ってたな。
松 顔見る度に誘われてました。あんまり飲みに行くっていうイメージがないエリアなんですけど、どんな店に行くんですか?
星 いつも行ってるのは[ToRi坊主]っていうラーメン屋。お昼から行くのよ。屋台みたいな店で、ラーメン屋やのにホルモンとかだし巻きとかアテがいっぱいあるから、それをアテに飲んで、シメにラーメン食べて帰る。
松 健全ですね。
星 やろ。でもそれがめちゃくちゃ面白いから。とにかく行ったらわかるわ。
松 でも飲んでしまったら、ラーメンまで辿り着けなさそうですけど。
星 ラーメンは食べなかったら後悔するから、最終その分のお腹は残しとくねん。
松 そんなに美味しいんですか?
星 鶏白湯がヤバい。今んとこボクの中では大阪で一番。
松 へー! ちなみにそこ以外にも面白い店ってあるんですか?
星 わんさかある。そしてどの店も、とてつもなく安い! うちの従業員とも一緒に行ったりすんねんけど、みんな山王にハマりすぎて、最近は休みの日に一人で行ったら従業員に会ったりするもん。
松 そんなにですか。
星 なんやったらボクもその従業員も、山王に住みたいとすら思いだしてるから。アカン、話してたら行きたくなってきた。今からちょっと行こうや。
松 ホッシーさん、今から店開けなあかんでしょ。
星 なんとかなるよ(笑)。でも山王ツアーは近々に行こ。まっちゃんは絶対に足繁く通うようになるから。断言しとくわ。
知らない人と行く旅行は
ミステリーツアー以上にミステリー。
星 飲みに行かれへんのもやけど、旅行に行かれへんのもすごいストレスやわ。
松 よう行ってはりましたもんね。
星 行ってた行ってた。旅行といえば、あんまり知らん人と旅行するのにハマってた時期があったわ、ボク。
松 え、どういうことですか!?
星 よく知ってるけど、よう考えたら本名までは知らん、みたいな人、街に結構いてない?
松 いてますね。酒場でたまに会って、そのまま一緒に飲んだりはするけど、連絡先も何の仕事してるかも全然知らん人とか。
星 そういう人と旅行に行くっていう。
松 だいぶイカれてますね(笑)。例えば、誰とどこに行ったりしたんですか?
星 [パンチェリーナ]※のコーちゃんと[マンティコア]※のリシュウさんと島根に行ったのが最初かな。
※パンチェリーナ:味園ビル2階にあるバー。店主のコーちゃんことタニオカコウイチロウさんは、大阪農林会館のうつわ屋[yawn]の店主としての顔も。
※マンティコア:バンド・赤犬のベーシスト・リシュウさんが味園ビル2階で営むバー。
松 どういう流れでそうなったんですか?
星 [パンチェリーナ]で飲んでたら、コーちゃんが「今度、島根の松江まで陶器買いに行くんですよ」って言うから「オレも行く!」って。その後行った[マンティコア]でもその話になって、「リシュウさんも行きます?」って聞いてみたら、「行こかな」って言うし。じゃあ行きましょかって。
松 その場のノリですやん、完全に。でも絶妙に不思議なメンツですね。
星 せやろ。で、車で4時間ぐらいかかったんかな、松江まで。みんなお互いの存在はよく知ってるけど、プライベートなことは全然知らんから、喋り倒して道中がアッという間やったわ。「リシュウさん、兄弟は?」とか聞きまくって。
松 意外とそういう話ってしないですもんね。特に酒場では。
星 そやねん。結果めちゃくちゃ仲良くなって帰って来たというね。ほんまに挨拶ぐらいしかしたことない人と行ったこともあるよ。
松 どうやって誘うんですか、それ?
星 「ボクね、あんまり知らん人と旅行行くのにハマってるんですよ」って話をしたら、ほとんどの人が「面白そうですね」って返してきはるやん。
松 そりゃそうでしょ。
星 まあ相づちみたいなもんやわな。だからその時に「じゃあ、いつ行きます?」って、日にちまで決めてしまうねん。
松 でもそれって出発当日まで、旅行にしては緊張感ありすぎませんか?
星 めちゃくちゃある。「なんでそんな約束したんやろ……」って、前日とかめっちゃ思うし。行き先がわからんミステリーツアーはあるけど、一緒に行く人がミステリーって、まずないから(笑)。
星桃次郎と一番星。
そして梨泰院クラスも。
星 そういえば自粛期間中に『仁義なき戦い』を観たわ。観たことある?
松 もちろん。全作。何回も。
星 面白いよな~。菅原文太、最高やわ。で、それをずっと観てたら「これもおすすめです」みたいな所に『トラック野郎』が出てきたのよ。
松 同じ菅原文太主演ですもんね。
星 そしたら『トラック野郎』の公開が1975年で、うちの実家の[鉄板野郎]※も1975年創業やねん。
※鉄板野郎:京都・上賀茂の御園橋近くに店を構える、ホッシーさんの実家でもある鉄板居酒屋。父亡き後、現在は弟さんとお母さんが切り盛り。
松 同じじゃないですか。
星 奇しくもそやねん。オヤジは『仁義なき戦い』が大好きで、菅原文太の大ファンやったから、『トラック野郎』も映画館まで観に行ったと思うわ。
松 確実に行ってはったでしょうね。
星 そしたら主人公の名前が「星桃次郎」で、乗ってるトラックが「一番星」。で、ボクの名前は「星本幸一郎」やん。息子の名前と3つも字が被ってて、店やる前にひとりで盛り上がったんやろな、「これはもう、店の名前を鉄板野郎にするしかない!」って。
松 え、そういう流れで命名されたんですか?
星 かもしれん(笑)。『トラック野郎』から取ったっていうのは確かやねんけど、ちゃんと聞いたことないから。あと『梨泰院クラス』は観た?
松 観てないです。何ですか、それ?
星 え、知らんの。大手外食チェーンの店に若者の店が闘いを挑むっていう、ちょっと復讐劇が入った韓国のドラマ。舞台が韓国料理店で、それもサブスクにあったから、ちょっと観たのよ。
松 はい。
星 最初の1店舗目をどうやって流行らすんかなーと思ってたら、雇った従業員にフォロワー70万人のインスタグラマーがいてると。で、そいつが写真アップしたらいきなり店が流行んねん。そんなん実際ある?
松 まあ、ないですよね。
星 ゆうていい? 店流行らすのそんな簡単ちゃうぞ! それと資金繰りもそやねん。どうすんのかなぁって思ってたら、同級生に資金繰りのプロがいてると。で、株で儲けよんねん……。そんな上手いこといくわけないやろ! 国金行け、国金!
松 めっちゃ怒ってますやん。
星 でもな、めっちゃくっちゃ面白いねん。
松 なんなんですか、それ(笑)。
星 ついつい観てしまうのよ。ようできてるわ~。まだ全話観れてないけど、誰かと『梨泰院クラス』の話したくて仕方ないもん。まっちゃん、山王ツアー行くまでに観といてや。
松 考えときます(笑)。じゃあ、そろそろこの辺でお開きにしましょか。近々、店行きますんで。
星 オッケー! 待ってるわー。
文:松本賢志
写真:井上雅央
編集:松尾修平
企画:納谷ロマン
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